第2回 伝統文化を通じ心にも磨きを。

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きちんと正座した弟子たちの前には扇子が置かれ、師匠と向い合う形で挨拶が行われたその時、清清しく澄んだ空気が教室には満ちていました。

作法を十分に知らなくても、少し昔には礼節を重んじる日本人社会の中で、こうした光景がいくどと見られたのではないかと感じいるひとときでした。

「日本舞踊を教えるという事は、ただ歌って踊ってと言うだけじゃなく、せっかく日本に生まれて育っているのだから、多くの人に伝えておきたい事がたくさんあって」

連載2回目の今回も、日本舞踊 尾上流師範 尾上五月(おのえさつき)さんに熱く語って頂きました。

 

連載 第2回目
日本の伝統文化を通じて心も磨きをかける

 

― お稽古を拝見し、踊りに取り組むお弟子さんの熱意もすごいと思いましたが、全員で正座をしてご挨拶された光景は圧巻でした。
お稽古では踊り以外の事もご指導されているのでしょうか?

《五月さん談》
私は、ただ踊るだけではなく、日本舞踊を通じて身につけられる色々な知識も一緒にお伝えするようにしています。
大人には「知識欲」があるので、何かを習う事で他のことも合わせて身につくと、とても得した気分になりますよね。見て習うだけじゃなく、その背景、生業など理屈も欲しいものです。

日本舞踊に限らず、お茶でもお花でもお琴でも三味線でも、自国の事を習う事の大切さを、今ふと立ち止り、考えてくれたらいいな~って思うんです。

でも、現代人は皆さん忙しいですし、面倒なことはやりませんよね。
どういう切り口でお伝えしたらみんなが興味を持ってくれるだろうと考えながら、なるべく身近でわかりやすい話を交えてお伝えしているんですよ。

例えばお扇子は、体と平行にして、こう置くじゃないですか。
お箸もこう置きますよね。
ところが、他の国って、フォークやナイフを、体と垂直に、こう置きますよね。
韓国はお箸も垂直に、こう置きますよね。
そこにはちゃんと理由があって。

日本のお扇子やお箸の置き方は、神の世界との結界をあわらしているんです。お箸をとり、「神様から頂く」。
そういう意味が込められているのですね。

それから、着物が男物と女物でつくりが違うとか…。
織田信長がお小姓を可愛がっていた話は、皆さんよくご存じだと思うんですけど、森蘭丸のお名前は有名ですよね。
お小姓である彼らは、女物のような着物を着ていたそうです。
若衆なども同じくココの空いている着物を着ていたんです。

まあ、いろいろな説があるので、はっきりはわかりませんが、その時代に男社会が作り上げたものかもしれないですね。

他にもいろいろ昔の話を紐解いてみると、随所に知らなかった事がいっぱいあるんです。
関東は右側から巻いて、関西は左側に巻くとか、地域によって違いがあったりもしますよね。

「なるほど!日本ってすごいな!」っていちいち思える事がちりばめられているので、そんな知識箱からも多くの皆さんが興味を持たれるといいなと思いますよね。

せっかくこんなに素晴らしい文化を持つ国に生まれたのですから。


男性の姿も。しかも、踊っていたのは宝塚の名曲「菫の花咲くころ」!

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― 五月さんは子供にも日本舞踊を教えていらっしゃいますが、大人と子供の指導法の工夫などありますか?

《五月さん談》
子供たちは理屈が要らなくて真似するんですけど、大人は理屈が欲しいですよね。
大人にとって裏付けはとても大切なんです。

英会話と同じですよね。子供は外国人の中に入れておいたらしゃべれるようになるけれど、大人はそういうわけにはいかないでしょ。
もう、脳が固まっているので、文法を勉強しながら、プラクティスも行えば、一番上達するんですね。

芸事も同じで、理屈があって実技があると早く上達できるんです。
だから、できるだけそういう事をお伝えするようにしていますね。

どういう事を今やっているのか? なぜそうなるのか?
昔はこういう背景があってとか、そう言う知識箱のようなものをできるだけお伝えしています。

私は芸能プロダクションの子役に教えていますが、子供たちに教える時に、それに裏付けがあったら、親が納得して満足してくださる。
それだけ芸事への理解も深まるんです。
親御さんの満足感が、結果的に子供たちを伸ばす事にもつながっているんですよ。

細かい振りを丁寧に。すべてに意味があり、それだけで美しさが俄然違ってきます。


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― 世界中から日本の伝統文化が注目される中、「日本舞踊を習いたい!うちの子も習わせたい!」と思う方も増えているように思います。
どんなにお弟子さんが増えても丁寧に伝えていかなければならない事ってどのようなことですか?

《五月さん談》
私がお教えしている子供の多くは、劇団、団体、学校などの授業の一環としてお稽古をうけていますが、個人的に門をたたいてとなると、皆さん敷居が高いという感覚はお持ちでいらっしゃいますね。

団体でお稽古するものとは違いマンツーマンですし、また師弟制度がありますから、師匠と弟子という関係になります。
この様なシチュエーションが、現代の人たちには、受け入れ難いところがあるみたいです。

私が丁寧に伝えていきたい事のひとつとして…。
例えば、お月謝ですが、今は授業料などは、振込で行うじゃないですか。
私のところでは、月謝袋があって、そこにきれいなお札を入れていただきます。きれいなお札を袋にいれるって、日本人の特別な感覚ですよね。
皆さんの日常でも、結婚式などご祝儀袋には、きれいなお札、新札を必ず用意しますよね。
そういう感覚ってキャッシュレスな社会になるとわからない事だと思うのですが、若い方達にとって面倒くさいって事にもつながるんですよね。

お月謝袋で持って行って、先生にお渡しする。
お茶のお月謝は、お扇子の上に載せてお渡しするとか、そういう礼儀がありますよね。
お願いします!という気持ちと共にお月謝を渡す。

日本の伝統文化をお教えしている訳ですから、ちゃんとした事をお伝えしておかないといけないと思うのです。

私たち、伝えていく立場の者は、多かれ少なかれ使命感のようなものを背負っていると思います。


指導はマンツーマン。ある意味、羨ましい光景です。

 

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五月さんのお話をお聞きし、お稽古場でぴりりとしたよい緊張を受けたご挨拶の空気感は「一夜にしてならず」という事がよくわかりました。

お弟子さんが生き生きとお稽古に取り組む姿は、まさに日本の伝統文化を通じて、自分たちの心まで磨きをかけていらっしゃるのですね。

踊りが上手いとか下手とか、そんな次元ではない、日本文化の担い手とその現場。
とても、奥深さを感じるお話でした。

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投稿者: Caracoro editer

Caracoro editer

カラコロエディターのぴょんです。体と心を健康にするための豆知識をミニコラムとしてお届けしています。皆さんの興味のある話題や取り上げてほしいテーマがあればぜひ教えてくださいね。